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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつから聴こえる声

ハチミツ好きのママ

 

 子供の頃、口の中にいた~い口内炎ができると、決まって両親に言われた。
 「ハチミツをつけておきなさい。」
 ハチミツは子供には手の届かない茶箪笥の上に置いてあるが、口内炎ができた時はすんなり出してくれた両親。
 しめしめしめと言わんばかりに、口の痛みを忘れてニンマリする私。
 ハチミツを舐められることが嬉しかったのだ。

 輝く琥珀色の甘くおいしいハチミツは、私の大好物だった。
 瓶のふたをあけ、スプーンにハチミツをすくってもらうと、僅か少しでもスプーンにハチミツの痕跡を残すまいと舐めまくった。
 ペロリン。ベロン。ベロベロ。
 「もういいよ」
 そう言われるまで何度も舐めていた記憶がある。

 蓋が開けっ放しで瓶が置かれたままの時は、親が見ていない隙に何杯も舐めた。
 「ん~。おいしい」
 いつ舐めても、どれだけたくさん舐めても、ハチミツの美味しさは格別だった。
 口内炎になるのはいやだったけれど、ハチミツにありつけるなら口内炎も悪くなかった。

 あれから半世紀近く時が流れ、私は今でもハチミツが大好きだ。
 最近は口内炎になることもなくなったけれど、ヨーグルトに、パンに、料理に。
 常にハチミツを常備している。

 両親が他界してからも、長い月日が流れた。
 何かの本で読んだことがあるが、人は思い出の中で「声」を最初に忘れるという。
 顔や情景はずっと記憶に残っても、いつからか「声」は思い出せなくなるという。

 「ハチミツをつけておきなさい。」
 在りし記憶を辿る時、父の、母の、"声"が脳裏に蘇る。
 まだ覚えているじゃないか。
 頭の中に響く懐かしい声に、私は一人ニンマリする。

 昨夜仕事から戻った夫が、「口内炎が痛くて…」と言ってきた。
 「ハチミツをつけておくといいよ」
 ハチミツの瓶とスプーンを夫に渡した。

 ハチミツを舐める夫を愛犬がガン見している。
 彼も知っているのだ。ハチミツのおいしさを。
 夫が舐め終えたスプーンを、僅か少しでも残すまいと、長い舌をベロベロさせて何度も舐めていた。

 そんな夫と愛犬の姿を見ながら、私の頭の中には懐かしい声が木霊した。
 「ハチミツをつけておきなさい。」
 ハチミツがくれるのは、甘~い美味しさと栄養。そして優しい思い出だ。

 

(完)

 

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